越冬 [雑感]
先週の日曜日,二人組みの村人が工房で土方作業中の僕に話しかけて来ました.もうかなりのお年寄りとお見受けしましたが,何かを追って子供のようにはしゃいでいます.聞くとクロスズメバチの巣をつきとめたいたいので敷地に入らしてくれとのこと,何かのマークをつけたくだんのハチが確かに植え込みの山茶花を越えて行きました.手には糸をぶらさげた小枝を持っていて,その先にはマグロの切身が結わえてあります.面白いので見物していたところ,驚いたことに白い八重の山茶花の花にオオスズメバチが止まって蜜を吸っているではありませんか!見たことも無いような大きい代物で,体長は5CM以上も有ります.さすがに二人組みのおじさんもこれには引けていました.おそらく越冬する女王だろうということでした.オスとの交尾を終えて,これから春まで樹の祠か土中の巣に単独で冬を越すのでしょう.
このオオスズメバチの攻撃性は相当なもので,夏の山道での作業には気を使ってきたことを思い出すとその時女王をなぜ逃してしまったのか不思議です.オオムラサキの幼虫の少なからぬ数がこのオオスズメバチの餌食になってしまうし,だいいち,餌不足の晩秋ともなると幼虫を部屋から引き抜いて肉団子にしてしまう鬼母でもあるのです.でも12月の小春日和に翌年の活動にそなえて健気に蜜を摂る女王を退治するのはなんとなくフェアではないような気がしました.彼らの磨き上げた合理性は機械のような非情さに徹していて,一片の感傷も入り込む余地がないと分かればそれなりのつきあい方が有ります.
クロスズメバチの方はどうなったかというと,しばらくして「有った有った!」という大声が聞こえたので首尾よく発見できたようです.おそらく幼虫とか蛹を珍味として食するのでしょう.食ったり食われたり,この里に居ると生物の因果な関係が見えて本では分からない別世界が面白いですね.
翌日は霜が下りて,朝霧の中に山はすっぽりと覆われてしまいました.庭の散水ホースも凍結し,本格的な冬の到来です.あのオオスズメバチの女王は今頃どうしているのでしょうか.憎ったらしいけどちょっぴり気になります.
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