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生命システム誕生の闇;プリオンが示すもの [生物システム]

 プリオンを感染源として発症すると考えられている病気はいずれも不思議な性質が報告されています.これらにはニューギニア原住民に多発したクールー,クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD),ヒツジやヤギのスクレイピー,ウシ,ネコ,ダチョウ,ヒトなどの海綿状脳症,ヘラジカとミュールシカの慢性消耗性疾患等が含まれるのですが,いずれも伝染性の中枢神経変性疾患で有りながら外敵の進入を裏付けるような炎症反応が観られないのです.
その代わり特徴的な病理像として,星状膠細胞の増殖とその細胞内でのアミロイドと呼ばれるタンパク質の異常蓄積が観察されます.このアミロイド・タンパク質はアルツハイマー病との関連が注目されていますのでご存知の方が多いのではないでしょうか.しかしアルツハイマー病の場合,外部から実験動物にアミロイド・タンパク質を脳に入れてみても病気を引き起こすことはできません.プリオン病の場合食物を通して明らかに感染が広がって行きます.アメリカのガイジュセク(D.C.Gajdusek)はクールーの研究により1976年ノーベル賞を受賞しましたが,彼等によると感染したハムスターの脳は土中で100年間程度は感染性を維持していると推定しています.とすれば感染ウシを土中に埋めたりすると,そこで育ったウシは草をはむことにより感染する可能性があるということです.
 プリオン感染源とは一体なにものなのでしょうか.1982年,プルシナー(Stanley Prusinar)はこの感染源をプリオンと名づけて,これがもともと脳細胞の膜に有った正常タンパク質の異型タイプであることを示唆しました.このタンパク質は異常な特性が有り,90℃でも活性が消えず,驚くべきことにアミノ酸による対合が可能だというのです.このことから病原タイプが正常タイプと接触して,正常タイプを異常病原タイプに変えてしまう機構が提起されています.これが正しいとすると,タンパク質自身が情報となって,自己増殖してしまう未知の機構が存在することになってしまいます.もちろんこれは仮説の段階に有るのですが,このプリオン病原タンパク質の増殖機構をめぐって今新たな実験が計画されています.分子の高次構造の詳細は分かっていて,一部のαーラセンと呼ばれる規則的構造が,別のタイプの規則的構造であるβーシート構造に変ってしまうのです.こういった立体構造の決定に対して大きな役割を果たすのがシャペロンという一群のタンパク質なので,プリオンタンパク質と正常タンパク質との直接の接触ではなく,シャペロンを介した構造変換を考えている研究者もいます.この機構が明らかにされると,従来のタンパク質の合成イメージは大きな変更をせまられるのでしょうか.僕の個人的な見解ですが,アミノ酸の結合順にこの未知の機構が関与する可能性が無ければ,従来のセントラル・ドグマは動揺することは起こらないように思います.しかし,何が発見されるのか分かりません.分子進化の現在の筋書きの根拠というのも,実はそれほど確たるものでは無いのです.

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