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物語の可能性:生命システム誕生の闇:DNAかタンパク質か [生物システム]

 現代生命科学の最もめざましい進歩を示すものとして真っ先にあげられるのが分子遺伝学です.今でこそ小学生でも遺伝物質がDNAであることを口にしますが,分子遺伝学の基本となる遺伝を担う物質の本体についてはタンパク質か核酸かの議論が長い間続きました.高校の教科書にも登場するエヴリー(Osward Avery)の肺炎双球菌形質転換物質同定に関する決定的研究を知れば,彼がノーベル賞を授与されなかったことがなんとも不思議に思えます.実験では熱処理S型菌から形質転換物質を抽出し,タンパク質,多糖,RNA,DNAの各々を分解する酵素で処理した後の形質転換活性を調べました.結果はDNAを分解した場合だけが形質転換しないというもので,議論の余地の無い明快な結果としか言いようがありません.しかし,ノーベル賞委員会も含めて当時の(Averyの論文が発表されたのは1944年です)科学者は遺伝物質としてのDNAに抜きがたい不信感を抱いていたようです.酵素処理の不完全性に関する議論や,その後なされた精製形質転換物質の明快な結果に対するタンパク質残存の批判等あまり公正なものとは思えないのですが,結局結論は1950年代のバクテリオファージの実験にもちこまれました.
 なるほどハーシェイとチェイスの実験では実験法としてバクテリアに特異的に感染するファージを用いたり,放射性同位元素を使うなど手の込んだ証明法になってはいるのですが,考え方としてはAveryの延長線にあります.この頃までにはノーベル賞委員会も趣旨変えを完了したらしく彼等の実験はノーベル賞を1969年に獲得しました.遺伝物質としてタンパク質からDNAへの転換が行われたのはこうした地道な証明の成果というよりは,むしろ1953年のワトソンとクリックによるDNA2重らせんモデルの発見の衝撃の方が大きかったのではないでしょうか.ともあれ2重らせん発見以降,DNAからRNAを経てタンパク質に至る遺伝情報の流れを求めて雪崩のように分子遺伝学は進展して行きました.DNA→RNA→タンパク質のセントラル・ドグマ(ウイルスを含めるとRNA→DNAの修正セントラル・ドグマになりますが)を疑う科学者を今や発見することは困難です.
 前置きがいささか長くなりました.セントラル・ドグマはおおかたの生物現象では真実ですが,例外はないのでしょうか.核酸の情報が有って初めてタンパク質が合成されるという筋書きに表現を変えると,タンパク質はそれ自身で複製の情報にはなりえないということです.地球上に誕生した最初の生命を考える時に,このことは決定的に重要な意味をもつことになるのです.それには未だ解明されていなプリオン病がヒントになります.
 

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